きょうのナナバン

俺アーカイブズ

過ぎた夏(2)

彼の言う「短いスパン」とは、いったいどこの時計を、あるいはカレンダーを基準にしているのだろう。それは僕らの知らない宇宙の、隅のほうでひっそりと暮らす、森の惑星の住人たちがもつ時間に準拠するのだろうか。彼らの星はやたら日が沈まないか、やたら日が昇らないのかもしれない。時間とは、万物に共通のようでいて、万物がそれぞれに持っているものなのかもしれない。

今年の夏は、母の誕生日から始まった。その日たまたま用事があった僕は実家に帰っていて、せっかくだからと夕飯を作ることにした。

今まで付き合ってきた人たちにさんざん「味が薄い」と言われてきた僕は、それでも自分ひとりで食べる分には変わらず薄味でいたのだけれど、こうして母の誕生日に振る舞う以上は「おいしい」と言ってほしくて、つい塩加減が多めになった。しょっぱいということはなかったが、母譲りの薄味を血肉にしてきた人間が作る料理にしては、味が濃かった。

「お母さんの料理を食べてきたのに、お兄ちゃんの料理は味がする」と妹が言った。おそらく褒めてくれたのだと思う。そうだぞ妹よ、こうして各家庭の味というものが築かれてゆくのだ、と思ったが何だか口にするとややこしそうなので、僕はへへへと笑った。

ちなみに同じことを、父の誕生日でもやらかした。ただでさえ高血圧の父に。

そんな夏のはじまりだった。